新當流（１）　鹿島の太刀神話に就いて

新　　　當　　　流

（１）　鹿島の太刀神話に就いて

１、本朝武芸小伝で日夏繁高が言挙げした「鹿島神人七人が関東七流を興した。」や

「武甕槌神たけみかずちが神代に用いた韴霊剣ふつうのみたまのつるぎの法則を吉川家の先祖国摩真人くになずのまひとが授けられた。」

とする鹿島吉川家の逸話は何時ごろ成立したのでしょうか。先ず、日夏繁高の本朝武芸小伝で

言挙げした内容は記紀神話から観れば香具師やしの口上の様な宣伝文句に過ぎません。日夏繁高が云う

「神術」や「刀術」等の用語は江戸時代創作されたのであり「術」は古事記・日本書紀では「わざおぎ」

（俳優・倡優）です。「わざおぎ」は、芸能の神様が司り、芸能の神様は神代から天鈿女命あめのうずめのみことです。

武甕槌神たけみかずちは国譲りの神話で、建御名方神たけみなかたのかみと「力競べ」で建御名方神たけみなかたのかみを

いとも易々と降した神話から相撲の神様として古くから親しまれて来ました。

「天照御大神」　伊勢神宮・徴古館蔵

塚原卜傳の免許皆伝書には修験・抖擻とそうの修行で研ぎ澄まされた感覚が身に付く密教に力点が置かれて

います。塚原卜傳の主家鹿島氏は、天正十九年（１５９１）、「影流二世」愛洲小七郎宗通が兵法指南を

していた佐竹氏に依って滅ぼされています。日夏繁高の本朝武芸小伝の上梓が享保元年である事や宮本武蔵

「五輪書・地の巻」で「常陸の国、鹿島・香取の社人共、明神の伝えとして流々をたてて国々を巡り、人に

つたゆる事近き頃の儀也。」と記し、今、寛永二十年（１６１３）十月上旬と記しているところから鹿島神人

創作の刀法神話は江戸時代初期と思われます。

２、記紀神話には刀法（刀術）の伝承はなく、「わざおぎ」にも関連しますが記紀神話では八岐大蛇の尾から

出てきた天叢雲剣あまのむらくものつるぎは天照大御神に献上され伊勢神宮の斎宮いつきのみや、倭姫命やまとひめのみこと

から日本武尊(やまとたける)へ火打石と共に「草薙(くさなぎの)剣(つるぎ)」の名称とし て与えられました。

「日本武尊と草薙の剣」　（邪馬台国大研究HPより）

日本武尊やまとたけるは東征の途次、相武焼津で賊に欺かれ野火遭難の際「草薙(くさなぎの)剣(つるぎ)」を払って難を逃れました。

神話では「草薙(くさなぎの)剣(つるぎ)」に霊力があるのであり「刀術」に霊力は認められていません。

しかも「霊力のある剣」を扱えるのは皇孫に限られています。

鹿島の神人が自己PRに制作された逸話は「記紀神話」から見ればとんでもない逸脱した作り話なのです。

柳生厳長翁が「剣道八講」で疑念を抱かれていた「松本備前守が上泉信綱を師事した。」とする香取・飯

篠家の伝承は、同じく「長威公念力にて自然に流儀を仕立て給う。梅の元にて励み給う故に是を『木伝流』

と名付け二男山城守盛直に伝う。山城守は鹿島に住居し鹿島新当流を世に弘める也」と云う伝承と同じ位

の信頼性・信憑性と観るのが史料的見地からの評価と思われます。（香取神慮神刀流根元鈔）

御神宝　「須賀利御太刀すがりのたち」

　明治政府の伊勢神宮の変革迄伊勢皇太神宮の御神体は御船代の中に奉安され御正殿の中央に数多の殿

内を飾る御装束や御神宝に取り囲まれ「黄金の御樋代」に納められていると伝えられてきました。

明治二年の式年に納められました黄金の御樋代が「勅封」とされる迄、正遷宮毎に時の長官並びに昇殿を許

された禰宜に依って新しい御樋代へ御神体を遷し替え参らせた事が記録として残されています。御神宝の

一つが「須賀利御太刀」です。（藤波氏美著『神廷秘録』）